認知症対応型グループホームE(2)認知症対応型グループホーム

認知症対応型グループホームE(2)認知症対応型グループホーム

 

これまで述べてきたように、私は幼い頃から祖父母にかわいがってもらってきていたので、他の同世代の方々と比べてみても、高齢者に対しては親近感を持っている方だろうと思います。もちろん私も、聖人君子ではないので、この人とは相性が悪いという高齢者もいたとは思いますが、それでも高齢者介護の世界に関わることができて、基本的にはとても良かったと思っています。そのなかでも特に私は、都心にあった認知症対応型グループホームでの介護職員としての仕事に、とてもやりがいを感じましたし、とても貴重な経験をさせていただけたと思います。

 

認知症対応型グループホームというのは、公式的には認知症対応型共同生活介護と呼ばれるもので、認知症の高齢者が、59人という少人数の家庭的な雰囲気の中で共同生活を行い、入浴、排泄、食事などの介護を受けながらも、地域社会に根ざした日常生活の支援や機能訓練を受けることによって、できる限り自立した生活を送ることを目指した介護保険サービスの一つです。これまで勤務してきた有料老人ホームや訪問介護事業所の場合には、高齢の利用者は、いわばお客様であり、介護職員がほとんど一方的に利用者にサービスを提供するという図式があったと思います。しかし認知症対応型グループホームの場合には、排泄や食事などの身体介護も確かにありましたが、それだけではなく、利用者とともにお米を研いだり、野菜を切ったりして食事の準備をし、居室の掃除をみんなで行うということが、日常生活の中で行われることになります。近所のスーパーへ利用者と買い物に行くことによって、利用者の地域での生活を支援することにもなりますし、また、野菜を切ったり、お米を研いだりすることで、日常生活上の機能訓練にもなっていたのだろうと思います。もちろん、介護の職種や業種に対する印象は、個々の職員それぞれで違うものだろうとは思いますが、私が持った印象としては、他の介護保険サービスと比較して、認知症対応型グループホームでは、日々の生活の中で行われる食事の準備や買い物、掃除などのような活動を通じて、それぞれの高齢利用者とより深く関わることができたのではないかと思いました。

 

例えば、3時のおやつを準備するとしましょう。有料老人ホームなどの場合には、介護職員がお菓子の準備をしたり、お湯を沸かしてお茶の準備をしたりするのだろうと思います。ほとんど全ての準備を介護職員が行うことになります。一方グループホームでは、できる限り利用者に準備してもらうことになります。その場にいる利用者の能力に応じて、例えば、お菓子の袋を切ってもらったり、急須にお湯を注いでもらったりしてお茶の準備をし、使ったお茶碗やお皿を洗ったりするのも、原則として利用者が行うことになるのだろうと思います。はっきりと言ってしまえば、私たち職員が全部やってしまえば、何分もかからずに終わってしまうような作業でしょうから、そっちの方が楽なのだろうと思います。でも、グループホームでは、できるだけ手を出さないことが求められました。なかなか終わらない仕事ぶりを見ていて、忍耐も要りましたし、かえってくたびれてしまうことも多かったと思います。でもそれだけに、利用者とも深く関われたのではないかと思います。

 

つまり、私が勤務していた都心にあった認知症対応型グループホームでは、認知症である利用者の自主性や自立性が重視され、あくまでも職員は影の存在であり、いわば人形浄瑠璃の黒子のように振る舞うことが求められていたのだろうと思います。居室の掃除にしても、自分たちが食べる食事の準備にしても、あるいは食材の調達にしても、利用者の方から希望が出されればそれに従いますし、出されなくても、職員が選択肢を提示したりすることによって、基本的には入居している認知症の利用者たちが主体的に取り組むことになります。職員は、いわば陰のサポート役として利用者の日常生活を支えるわけです。

 

私が勤務していた、都心にあった認知症対応型グループホームでは、日中の時間帯は、職員が早番、日勤、遅番と、ほぼ常に3人以上でシフトが組まれていたと記憶しています。ほぼ毎日のように、昼食後、職員1人が23人の利用者とともに、近所のスーパーまで食材の調達のために買い物に行っていましたが、まだユニット(グループホームの一つの単位)には複数の職員がいたので、こういった様々な活動も可能でした。社会福祉法人が運営していたということもあったのではないかと思いますが、でもこの職員のシフトの状況は、介護を行う環境としてはかなり恵まれていたと思います。ただ、私が勤務していた時から10年近くの時間が流れてしまっているので、今はどうなっているのかちょっとわかりません。